山陰亭

原文|解説|口語訳

『菅家後集』504

官舎幽趣〈六韻〉  官舎の幽趣《いうしゆ》〈六韻〉

郭中不得避諠〓  郭中《くわくちう》 諠〓《けんくわ》を避くることを得ざれども
遇境幽閑自足誇  境《きやう》に遇《あ》はば 幽閑《いうかん》 自《みずか》ら誇るに足る
秋雨湿庭潮落地  秋雨 庭を湿《うるほ》す 潮《うしほ》の落つる地
暮煙〓屋潤深家  暮煙《 ぼえん》 屋《おく》を〓《めぐ》る 潤《うるほ》ひの深き家
此時傲吏思荘叟  此《こ》の時 傲吏《がうり 》 荘叟《さうそう》を思ふ
随処空王事尺迦  処《ところ》に随《したが》ひて 空王《くうわう》 尺迦《しやか 》に事《つか》ふ
依病扶持藜旧杖  病に依《よ》りて扶持《ふぢ》す 藜《あかざ》の旧《ふる》き杖
忘愁吟詠菊残花  愁《うれ》ひを忘れて吟詠《ぎんえい》す 菊の残れる花
餐支月俸恩無極  餐《さん》は月俸《げつほう》に支へられ 恩極《きは》み無《な》けれども
衣苦風寒分有涯  衣は風の寒きに苦しみ 分涯《はて》有り
忘却是身偏用意  是《こ》の身を忘却して 偏《ひとへ》に意《こころ》を用《もち》ゐれば
優於誼舎在長沙  誼《ぎ》が舎《いへ》の長沙《ちやうさ》に在《あ》りしよりも優《まさ》る

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口語訳

官舎での奥深い情趣〈六韻〉

城下では 喧噪《けんそう》から逃れることはできないが
この境地に出会うと 奥深く静かな光景は自分でも充分自慢できる
秋雨が庭を濡らすのは 海水の垂れる土地
夕暮れの靄《もや》が建物を取り巻くのは 湿気のこもる家
こんな時 傲慢《ごうまん》な役人だった 荘子《そうし 》を思う
時に応じて あらゆる物は実体がないと説いた 釈迦《しゃか 》に仕える
病気で助けられるのは あかざの(茎でできた)古びた杖
憂愁を忘れて詠うのは 時節遅れで咲いた菊の花
食事は月の給料に保たれ 恩恵は限りないが
装束は寒風に苦しめられ 身の程には限度がある
(しかしこんな)身の上を忘れ去って ひたすら思いをめぐらせば
(左遷された)賈誼《かぎ》の公舎が(湿気の多い)長沙《ちやうさ》の地にあったことよりは勝っている

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