山陰亭

原文|解説|口語訳

『菅家後集』511

代月答  月に代《かは》りて答ふ

〓発桂香半且円  〓《めい》は発《ひら》き 桂は香り 半ば円《まどか》ならんとす
三千世界一周天  三千世界 一たび天を周《めぐ》る
天廻玄鑑雲将霽  天は玄鑑《けんかん》を廻《めぐ》らせ 雲は霽《は》れんとす
唯是西行不左遷  唯《ただ》 是《こ》れ西に行くのみ 左遷ならず

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解説

 直前の「秋月に問ふ」で道真が投げかけた問いを受け、月が答えた詩です。むろん天体が人間と対話するはずがありませんから、道真自身が月になりかわって答えを返しています。

 月には桂《かつら》の木が立ち、こよみぐさが1日に1枚ずつ葉を生やしながら満月へのカウントダウンを始めています。そしてもうすぐ半月というところ。仏教では全宇宙は三千もの世界からなると言いますが、その広大な海を、舟はゆるやかに周遊します。

 やがて満月を迎えると、月は天の鏡となって、世界をくまなく照らし出します。その時、月にまとわりつく黒雲とて雲散霧消するはず。にもかかわらず、何度満月が来ようとも、己が背に課せられた「左遷」の名が間違いであったと明らかになる機会は訪れません。月が西へ流れるのはごくありふれた光景に過ぎず、遷客にとって、同病相哀れむどころか何の救いにもならないことが明らかになっただけでした。

 最終句「唯是西行不左遷」の主語は誰か、2種類の説があります。1つは「たまたま西へ向かっただけだ、(この旅は)左遷ではない」と、道真の叫びと見るもの。もう1つは「たまたま西へ向かっただけだ、(あなたと違って)左遷ではない」と、月の冷淡な回答と見るもの。藤原克己氏は後者の立場に立ち、「おあいにくさま」という諧謔《かいぎゃく》まで嗅《か》ぎ取っているのですが、月の代返という構成を重視すると、やはり月が発話の主体となるのでしょう。そして「同じく西に行くけれど、君の仲間などではないよ」という冷酷な回答まで見通した上で詠み始めたような気がしてなりません。

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口語訳

月に代わって答える

(月では)こよみぐさが咲き 桂《かつら》が香り 半月になろうとしている
(そして)数多の世界からなる広大な天を一周する
天は深遠なる鏡をめぐらせ (私を覆う)雲は晴れようとしている
ただ西に行くだけだ 左遷ではない

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