山陰亭

原文|解説|口語訳

『菅家文草』03:200

寒早、十首                 寒は早し、十首
〈同用「人」「身」「貧」「頻」四字〉(1)  〈同《とも》に「人」「身」「貧」「頻」の四字を用ふ〉(1)

何人寒気早  何《いづ》れの人にか 寒気早き
寒早走還人  寒は早し 走還《そうくわん》の人
案戸無新口  戸《へ》を案ずれど 新口《しんこう》無く
尋名占旧身  名を尋ねて 旧身を占ふ
地毛郷土瘠  地毛《ちぼう 》 郷土なれども瘠《や》せ
天骨去来貧  天骨《てんこつ》 去来《きよらい》せば貧《ひん》す
不以慈悲繁  慈悲を以《もつ》て繋《つな》がざれば
浮逃定可頻  浮逃《ふうたう》 定めて頻《しき》りなるべし

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解説

 仁和2(886)年の初冬、讃岐の地で作った五言律詩の連作「寒は早し」の第1首です。全10首のテーマは以下の通り。

 大別して、税負担に堪えかねて故郷を捨てた人・家族のいない人・末端の公務員・農業以外で生計を立てる民間人に分かれます。いくら働いても生活は楽にならず、困窮にあえぐ人々の姿を描いており、筑前守だった万葉歌人山上憶良《やまのうえのおくら》の長篇「貧窮問答歌」に匹敵する作品群と言われています。

 この10首は、全て「何れの人にか 寒気早き/寒は早し ○○の人」という疑問文と解答の形で始まり、「人の身の貧しきこと頻《しき》り(人間はいつも貧しい)」を韻字とします。白居易の連作「春の深きに和す」10首がモデルと言われますが、春の訪れを堪能する人々から冬の寒さに苦しむ人々へと、枠組みを大幅に作り替え、国司の立場から地方の実情を書き留めました。その意味で、文学作品としてではなく、歴史史料として言及される作品群です。

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口語訳

冬の寒さが早く訪れる、十首
〈皆「人」「身」「貧」「頻」の四字を(韻字として)用いる〉(1)

誰に 冬の寒さは早く訪れるのだろう
冬の寒さは早く訪れる (税の負担を逃れて他国へ)逃げ出しながら帰ってきた人に
(戸籍で)家を調べても 近年生まれた人(の記載)はなく
名前を尋問して 元の出身地を推測する
草の生える土地は 地元とは言えやせており
生まれつき(貧しいのに) 往来すると(さらに)貧しくなる
(もし役人が)慈悲でつなぎ止めなければ
(再び)逃げ出すこと きっと頻繁なはずだ

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